動物病院におけるメンタルヘス対策とは?必要な4つのケアと取り組み方
2022/05/29
新社会人として働き始めた方、新入社員の入社や自身の転職による職場環境の変化など、何かしら生活環境が変わるのが4月ですね。
次第に新しい環境に慣れ、初期の緊張が緩んでくると、「集中力が続かない」「倦怠感を感じる」「疲れが取れない」といった症状が現れ、メンタル不調を訴える人が増えるのもこの時期です。一般的には、5月病などともいわれますね。 特に動物病院では、4月から6月は予防の時期に突入し、1年の中でも最も忙しい時期です。仕事に追われ、自身の心の疲れに気付かないことも。
心の健康には、ストレスを溜めないこと、そしてメンタル不調に関して早期に気付くことが大切です。
ただ、「もっと頑張らなきゃ〜」と思っている状態では、なかなか自身ではメンタルダウンしている状態に気づきにくいものです。そこで、メンタル不調に関しては、組織的に取り組み、周囲がメンタル不調に気付き、ケアを行うことが求められます。
目次
メンタルヘルスケアの基本的な考え方
3つの段階
職場におけるメンタルヘルスケアには「3つの段階」があり「4つのケア」が効果的だと考えられています。これらはメンタルヘルスケアを推進する上での土台となるため、経営者や総務人事部門の担当者であれば基本概要を知っておきましょう。
「3つの段階」とは、ストレスに対してどの段階で予防・対処するのかという考えに基づいた枠組みで、一次予防/二次予防/三次予防に分かれています。各段階の考え方や、段階に応じた取り組みなどは以下の通りです。
段階 | 具体的な取り組み | |
---|---|---|
1次予防 | 未然に防ぐ | ストレス緩和ケアの推進、 ストレスマネジメント研修 、ストレスチェック制度の導入 など |
2次予防 | 早期発見 | 産業医との面談機会の設置 、メンタルヘルス専門の外部サービスとの連携 、相談窓口の設置 など |
3次予防 | 職場復帰支援 | 職場復帰支援プログラムの策定、 職場復帰支援プランの作成 など |
1次予防
未然に防ぐ
ストレスによってメンタルヘルスに不調をきたす前に予防する段階です。労働者が各自で行うストレス緩和ケアのほか、労働環境の改善もこの段階に含まれます。主に、ストレスマネジメント研修やストレスチェック制度の導入などにより、労働者一人ひとりのメンタルヘルスに対する意識を高めていきます。
2次予防
早期発見
二次予防では、メンタルヘルスに不調があらわれた労働者を早めに発見して適切な措置を行う段階です。本人が不調に気づいたときに自発的に相談できる相談窓口の設置や、産業医との面談機会を設けることなどが主な施策です。メンタルヘルス専門の外部サービスとの連携も効果的です。同僚や管理監督者も異変にいち早く気づき、気兼ねなく相談できる職場風土を目指します。
3次予防
職場復帰支援
メンタルヘルス不調によって休職した労働者の職場復帰をサポートする段階です。休職による不安や焦りを緩和させるための精神的なフォローや、復帰後に無理をさせないような仕事面のケアなどを行います。三次予防をおろそかにすると再発や離職につながるため、慎重なフォローが求められます。
ここでいう職場復帰支援とは、休業の開始から通常業務への復帰までの流れを明確にして制度化・ルール化したものです。これらの制度やルールが曖昧のままですと、休職者をスムーズな形で職場復帰させられません。3つの段階を把握することとあわせて、厚生労働省のホームページを参考に職場復帰支援について理解を深めておくことをおすすめします。
職場に求められる4つのケア
組織的な取り組み
「3つの段階」で教育研修や制度の導入、情報提供、労働環境の改善に加えて、「4つのケア」を継続的かつ計画的に行うことが重要です。この「4つのケア」とは、厚生労働省が2015年に公表した「労働者の心の健康の保持増進のための指針」(改正)で示されたものですので、以下の概要を参考にポイントを押さえておきましょう。
ケアの種類 | ケアを担う人 | 概要 |
---|---|---|
セルフケア | 個人(労働者自身) | 労働者自身でストレスの予防、対処をする |
ラインによるケア | 管理監督者 | 管理監督者が職場のストレス要因を把握して改善する |
産業保健スタッフ等によるケア | 事業場全体 | セルフケアおよびラインによるケアの実施をサポートする |
事業場外資源よるケア | 外部 | 外部の機関やサービスを活用する |
セルフケア
労働者自身
セルフケアは労働者自身でストレスを予防し、気づいたときに適切に対処することです。セルフケアは正しい知識がないとうまく対処できないため、事業者は労働者への情報提供や教育研修によりサポートします。ストレスへの気づきを促すためには、ストレスチェックの実施も有効です。
ラインによるケア
管理監督者
ラインによるケアは、管理監督者が職場のストレス要因を把握して改善することです。管理監督者は部下である労働者の相談に乗り、必要に応じて労働環境等の改善を行うなどの対応をします。管理監督者が労働者のケアを担うためには、メンタルヘルス研修などを通じて、監督者自身がメンタルヘルス予防の視点をもつ必要があります。
産業保健スタッフなどによるケア
事業場全体
産業保健スタッフ等によるケアは、事業場内の産業医や衛生管理者などによる支援です。先に挙げたセルフケアおよびラインによるケアの実施をサポートします。個々のケースを支援だけではなく、メンタルヘルス関連の教育研修の企画・実施や労働者からの相談等を受けることができる制度や体制を整えることなども行います。
事業場外資源
外部との連携
事業場外資源によるケアは、メンタルヘルスケアの専門知識を有する外部の機関やサービスを活用することです。事業場内での相談を希望しない労働者のケアや、企業が抱えるメンタルヘルスの課題を外部の専門的な知識を有する資源の支援により解決したい場合に効果的です。
4つのケアのポイント
動物病院での取り組み
今回は、動物病院でも推進すべき具体的なメンタルヘルスケアについてお伝えしましたが、大まかなまとめとしては、以下の通りです。
-
労働者の心の健康づくり実施にあたっては、一次・二次・三次予防を円滑に行う必要がある
-
一次から三次の予防とあわせて、「4つのケア」を継続的かつ計画的に行うことが重要である
そう言われても、何から取り組んでいいのかわからないと感じられるかもしれませんね。
私が動物病院でメンタルヘルスケアの対策としてはじめにおすすめするのは、ラインケアによる管理監督者への教育とストレスチェックの導入です。
管理監督者への教育
院内のメンタルへルスケアのキーパーソン
ラインケアのところで前述したとおり、管理監督者が職場のストレス要因を把握して改善することでが求められます。そのためには、管理監督者は部下である労働者の相談に乗ることからはじまります。管理監督者が労働者のケアを担うためには、監督者自身がメンタルヘルス予防の視点をもつ必要があります。部下のケアを行う上では、管理監督者自身のセルフケアも同時に求められます。
職場でのメンタルヘルスケアの取り組みの第一歩は、”声かけ”から始まります。
動物病院においては管理監督者と言っても、多くは部署のチーフや一番勤務経験の長い方がその役割担う中間管理職ではないでしょうか。その中間管理職自身が心に余裕がなかったり、メンタル不調に陥っていては現場での取り組みは難しくなるでしょう。
それゆえ、まずは管理監督者の役割を担う中間管理職の教育から取り組むことをお勧めします。
メンタルへルスの教育や研修などは、厚生労働省でも推奨していますので、活用してみてください。
ストレスチェック制度
予防への取り組み
動物病院に限らず、仕事や職業生活に関する強いストレスを感じている労働者が半数以上にのぼるというデータが出ています(厚生労働省 令和2年労働安全衛生調査(実態調査))。そのような中で、「従業員が何に対してストレスを感じているか」は、可視化が困難です。そこで、メンタルヘルス対策の一つとして、ストレスチェックがあります。ストレスチェックとは、従業員が自分のストレス状態を把握し、予防につなげるアンケート形式の検査です。
従業員が50名以上の事業所では、ストレスチェックの実施が1年に1度義務付けられていますが、50名以下の事業所で取り組んでいけないことはありません。積極的に取り組むことで、メンタル不調者の早期発見につながり、メンタル不調による離職を予防することも可能です。事実、ストレスチェックを積極的に行い、高ストレス者に対して、産業医などの診療につなげられている動物病院では、メンタル不調による離職がないという成功例もあります。
また、自分自身のストレスをチェックしたいという方は、厚生労働省で簡易のストレスチェックも実施しています。
まとめ
まずは、できることから
今回は、動物病院がメンタルヘルス対策に取り組むことの必要性や、取り組む際のポイントなどについて紹介しました。労働者のメンタルヘルス不調は、動物病院の経営にとっても重要な課題の一つです。
メンタルヘルス対策に取り組む際には、メンタルヘルス不調を未然に防止する「一次予防」、メンタルヘルス不調の早期発見へと繋げる「二次予防」、そして、メンタルヘルス不調となった労働者の職場復帰支援である「三次予防」を合わせた一連の流れである「3つのステップ」を実践することが欠かせません。また、「セルフケア・ラインケア・事業場内産業保健スタッフなどによるケア・事業場外資源によるケア」からなる「4つのケア」をしっかりと押さえ、職場の労働環境を改善することが大切です。